“Blessed are the cheese makers”。直訳すれば、「尊敬されるべきは、チーズを作る人たち」。イギリスのアルチザンチーズ業界で、よく言われるフレーズ。1970年代後半からの、チーズ業界ルネッサンス期以降、セットフレーズとしてよく使われる表現で、イギリスではとても深い意味があります。元々の由来は、イギリス文化の一部ともいえる、モンティーパイソン(1970年代にイギリスで一世を風靡したコメディグループ)の映画、ライフ・オブ・ブライアン(Monty Paython – Life of Brian)の中で発せられる一言。
ロックダウンから3ヶ月以上が経った、6月末のイギリス。先週の小売業界の再開に続き、今週末からは、いよいよ飲食業界も再開です。アルチザンチーズ業界も、新しい体制で本格的に再起動しつつあります。いわば、イギリスはコロナ禍の一つの節目を迎えており、”Blessed are the cheese makers” のフレーズも、最近、よく耳にします。イギリスのアルチザンチーズ業界に関わる全ての人にとって、これはまさに黄金律。業界全体がこの精神で一致団結し、過去から学び、今を作り、未来へ繋げていこうとする動きには感動すら覚えてしまいます。そんな訳で、6月30日のイギリスでのプチ出来事を一人の外国人として反芻・・・
6月30日メジャー新聞、The Dairy Telegraph誌の記事。やはり、タイトルは、”Blessed are the cheese makers”。工場製チェダーと農家製チェダーの二つの市場が共存するアメリカとイギリス。この二つの国は、皮肉にもコロナ問題も深刻。この数ヶ月の経済的指数も含めた英米チーズ業界の深い分析。そして、70年代から40数年かけ、チーズメーカーと手を取り合いながら、イギリスアルチザンチーズ業界の発展に貢献してきた、チーズ業界の重鎮、ニールズヤードデイリー (詳細はこちら)の今後に向けた心構えを解説している記事。
6月30日、イギリスのアルチザンチーズ業界全体が集うウェビナー。テーマはずばり、「新しい世界へ向け、アルチザンチーズ業界に関わる人々はどうすべきか?」コロナのおかげ(?)で、バーチャルの世界で人が集まりやすくなったのは事実。パネリストは、400年以上、家族数世代にわたり、連綿と伝統的農家製チェダーを作り続ける農家、イギリスモダンチーズのカリスマ的メーカーさん、チーズジャーナリスト、イギリス北部の農家製チーズの保護に献身的なアルチザンチーズ専門の卸売業者、イギリスを代表する乳製品製造技術コンサルト、そして消費者を対象にチーズ教育の普及に貢献するアカデミーと、そうそうたる顔ぶれ。招待ゲストは、イギリス全土のアルチザンチーズメーカー、チーズ専門店各社、メディア等々。光栄にも今回、Culture & Culture もゲスト招待いただきました。とても勉強になるウェビナーだったのは間違い無いのですが、とても印象深かったのは・・・
1. ゲスト、パネリストが全員、チーズメーカーさんたちを尊敬し、メーカーではない方々が、自分の立場でメーカーさんたちのために何ができるかということを真剣に考えていること。まさに、”Blessed are the cheese makers “の精神が浸透しています
2. チーズメーカーさん自身も、チーズ専門店等の将来をとても考慮していること。作り手と売り手のはっきりとした役割分担。良いチーズを作るためには、作ることに専念すべきなのか?それとも、メーカさんもチーズを売る努力をしていかなければならないのか?生産するチーズスタイルの種類を増やすべきなのか?熱い議論でしたが、互いに対する敬意と、それぞれの専門に対する自尊心からくる、業界全体のチーム体制作りの精神に感動
3. チーズという食べ物がイギリスという国で、何を意味するのか?なぜ保護していくことが大切なのか?それを消費者にしっかり伝えることはとても重要であること。イギリスは戦後の影響でこれが非常に弱かったのです。コロナ禍の数ヶ月で、この分野が一気に発達し始めています。
私自身、ちょうど8年前に東京からイギリスへ移住した際、当然のようにチーズについてさらに深く体系的に学ぶことができる場を探しました。当時、そんな組織は皆無で、ニールズヤードデイリーの単発のテイスティングクラスに足繁く通いつめた時期をふと懐かしく思い出しました。今、まさに、イギリスのチーズ史が大きく動こうとしているのを感じ、ちょっとワクワクもするのです
←これ、5年前に、半分冗談でクリスマスプレゼントに頂いたもの。サイズがとても大きく、しばらくは部屋着になっていましたが、最近、このTシャツ、何だか重みがあります・・・