Quince Membrillo Marmelada or Kaseita – クインス古今東西

まず、クインス(マルメロ、西洋花梨)とは、こんな形です。皮も実も硬く、渋みも強く、生食は不可能。ただし、この芳しい甘酸っぱい独特の香りは、心をほっとさせてくれます。日本ではポルトガル、スペインの果物というイメージがありますが、コーカサスから地中海沿岸を経由し、13世紀にはイギリスにも伝わり、クインスから作られるジャムやゼリー(フルーツそのものが持つペクチンで固められたもの)は、当初からお肉料理の付け添えとして食されていたそうです。

レストランやパブなどのチーズボードには、こんな感じのクインスペーストがついてくることがよくあります。

4月下旬〜5月初旬、イギリスで桜の花が完全に終わった後、桜の後を追うようにクインスの花が咲きます。今年はまさにロックダウンピーク時でした。この時期の太陽の光は今、写真で見ても本当に眩しい!この光の中で、可愛いピンクの花は時間の経過とともに、果実へ変化。我が家のお庭のクインスの樹は三年前に植樹。今年初めて実をつけました!記念すべき、コロナクインスなのであります(涙)・・・これまで義母のお庭からのお裾分けだったのですが、初の自家産!←これくらい、クインスってイギリスの田舎では普通にあるものなんです。イギリスではファーマーズショップ、マーケット、そしてグローサリーを扱っているデリなどで見かけるようになります。生食できないので、スーパーでの取り扱いはほとんどないようです。この季節はオンラインでも購入できるようです。

さて、生食できない果物はどうなるのか??調理方法は?

基本はペースト(羊羹風)かジャムかゼリー。クインスの特徴はなんといっても、果実そのものに、含まれるペクチンの多さ。ペクチンとは、単純に言えば酸と糖分に反応して液体をゲル化させるもの。つまり天然ゲル化剤。普通のジャムなどもこのペクチンの作用を利用した食品です。クインスゼリーもゼリーと呼ばれるものの、ゼラチンなどを使うのではなく、果実が持つペクチンの作用をうまく利用して作られているのです。そして、このペクチン、整腸作用とコレステロール低下作用など色々な効能があるらしいのです(Wikipedia、その他ネット参照くださいね)。目から鱗でした。もちろん、保存食なので、お砂糖たっぷりとはいえ、体に良いこともたくさん。さて、記念すべき、初自家産クインスということで、めでたくゼリーにしました。ペクチンを利用した保存食ゼリー作りに初挑戦。意外と簡単でした。手順は以下の通り。火傷に気をつけながらぜひ、お子様と科学の実験のつもりで試してみてください。できたゼリーはキラキラ輝く宝石のようです。ジャム代わりにトーストにつけても、ちょっと大人味で美味。

綺麗に洗って、ぶつ切り。そしてシンプルにコトコト煮ること、約1時間半。まずは1kgのクインスに対して、1.2lくらいの水が目安。フルーツ全体が水に浸かっているようにするために、途中で適宜水を足します。

ジャムストレイナー(つまり濾し器)が必要になるのですが・・・キッチンアイテムを増やしたくない方は、”Strainer Bag” でネット検索して、ご自宅のキッチンザルに合いそうなものを準備してストレイナーも作っちゃいましょう。

クインスの実が柔らかくなったら、煮汁を濾過します。ゼリーを作る際は、この時に絶対にプレスをしないことがポイント。自重で濾過!時間はかかります、一晩置いておく覚悟で。そして、残った果肉はお鍋に戻し、ヒタヒタの水を入れ再び30分ほど煮て、この煮汁も濾過。2回目は量が少ないので濾過にもさほど時間はかかりません。つまり同じフルーツから煮汁を2回採るのです。

元々の果肉は白いのですが、濾過した煮汁は鮮やかなオレンジになります!ここでできた煮汁の重量と同じ分量のお砂糖(最低でも80%!)のお砂糖と、レモンジュースを投入。1kgのクインスであれば、レモン1.5個分くらいのレモンジュース。これをひたすら煮詰めることになります。

最初はアクが出るので、アクを綺麗に取り除きます。そのあとはとにかく30分〜1時間ほど煮詰めていきます。時々様子を見ながら・・・すると、セッティングポイントに達します。

セッティングポイントに達しそうな瞬間です。ここで、一度火を落とし、大さじ一杯分くらいをお皿に流します。1分ほど置いて、液体を指でなぞってみると、表面にシワがよるような感じであれば、完成(冷めたらゲル化する状態)。熱いうちに手早く、熱消毒しておいたジャム瓶に詰めます。火傷に注意です!ステンレス漏斗があると便利です。熱いうちは液状ですが、冷めるとゲル化し、ちょうど水羊羹のような食感になります。できたものはチーズに合わせて。特に、羊乳のハードチーズとの相性は最高です。スペインを代表する羊乳ハードチーズ、マンチェゴとセットとして扱われるのも納得がいく、絶妙の味わいです。上質なチェダーともなかなかの相性ですし、探せばイギリスチーズにも羊乳製はあります。綺麗な瓶に詰めると、ちょっとしたプレゼント、手土産にもなります。10月ハーフタームの時間潰しにぜひ、お試しあれ!

左:三年前に作ったクインスペースト(立派な保存食!)
右:今年のクインスゼリー

冒頭で触れたクインスと日本の関係。スペイン、ポルトガルが強かった大航海時代、つまり16世紀にポルトガルが鉄砲、キリスト教だけでなく、クインスも九州に伝えたのです。そして、日本は江戸時代。当時、ポルトガルでも高価な食品だった、マルメラーダ(クインスのポルトガル語: Marmelada)。いつしか、九州熊本藩主の細川家の秘伝のお菓子となり、徳川幕府へ「Caixa da Marmelada : カイジャ・ダ・マルメラーダ(マルメロジャムの箱という意)」を「加勢伊太:カセイタ」という和名で献上していたという記録が残っているそうです(https://www.kobai.jp/kaseita/)。熊本の銘菓店ではこれを復元し、今も上質和菓子として販売されています。因みに・・・ポルトガル語のマルメラーダは、マーマレードの語源と言われています。クインスは、イギリスだけでなく、江戸時代には日本にも伝わったのですが、和菓子として定着するには至らなかったみたいですね。その一方、テンプラ、カステラは日本に根付き、カステラに至っては、九州人(私だけ??)は長崎銘菓のカステラと思い込んでいます。食文化の伝播と歴史、面白いですね。最後までお読みくださり、ありがとうございました。


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