日本酒なるものを全く知らない(であろう)イギリスの方を対象に、St Judeというチーズと日本酒のペアリングのお話・・・正直、これは非常に難しい!!なぜ難しいのか?それは、まず、St Judeというチーズのキャラクター。上記の写真からもご想像できる通り、St Judeと一言でいっても、実に様々な味わい、食感があり、これらは、ロットどころか、個体ベースで違ってくることも。完全農家製、無殺菌乳で作られるチーズ。ちょっと小難しい話ですが、テロワール、季節、牛が育てられる環境、そしてもちろん、メーカーさんの哲学、熟成させる人の嗜好と方向性、さらには食す直前、各家庭でどのような環境、どのような状態で保存されていたのかまでもが、チーズの味わいに現れてしまうのです。そして、まさに、これが作り手であるジュリーが一番こだわるところであり、St Jude の魅力。まぁ、正直、自分で言うのもなんですが、熟知しているSt Judeでよかった!!St Jude は、取り扱っているチーズ専門店それぞれで味わいも違うし、作り手ジュリー自身にとっては、そのこともこのチーズの面白さ。ジュリーから直接仕入れ、冷蔵庫保存させた春のSt Judeがどのようになるのかは大体、想像できたので、お酒の提案は即答。企画段階で、主催者の方へ、St Judeの味わいや状態に合わせた日本酒を数種類ご提案。例えば、イベント当日のチーズが若い状態であれば、ABC酒。理由は、XXX。といった具合に・・・結果として、主催者さんの都合もあり、獺祭45を合わせることに。これはラッキー。獺祭はすでにインターナショナルな日本酒。さらには、日本酒を飲んだことがないイギリス人にも割と受け入れられやすいタイプ。
さて、イベント当日、日本酒を知らないイギリスの方々に何を伝えたいのか?こういったとき、まず考えるのはイベント自体の本来の意味
- ロックダウン中の金曜日の夜、自宅からカップル参加
- スポットライトはSt Jude チーズと、チーズメーカーのジュリー
- このイベントでの日本酒は、あくまでチーズの引き立て役
そして、一番大切なのは、「チーズとお酒」というアイディアは、ロックダウンという不自由な生活を送っている人たちに何かしら斬新なアイディアをインプットし、自宅での新しい楽しみを見つけてもらうこと。幸い、オンラインショッピングが急速に発達し、イギリスでは、獺祭は一般人でも入手しやすくなっているいます。Zoomという限られた環境で実際にお伝えしたことは・・・
- 日本の食文化の中での、お酒とは?個人的な解釈になりますが、日本酒とは、飲むためのお酒ではなく、日々の暮らしに、さらなる豊さをもたらすものであること
- 日本食を作る時、かなりの確率でお酒を使うのは、青魚の臭い消しでなければ、ほぼ、おかずの味わいに深みをつけるため。英語で言えば、まさに”condiment” (この単語はチーズ界でよく使われる単語。チーズのつけあわせ)
- 家族、友人、仲間と「酒を酌み交わす」。お酒は良い時間を生み出すとても大切な媒体であること
イベント当日のSt Judeの味わいは、想定通りでまずは一安心。ミルクのコクがしっかり。クリーミーさの中に、ほのかな牧草の香り。コッテリ、ねっとりと口当たりが重いわけでなく、程よい軽さもある状態。チーズとドリンクのペアリングで必ず考慮しなければならないのは、味わいの重厚感。この日のSt Jude は半熟〜3/4くらいの熟成度。獺祭45とバランスがとりやすい口当たり感。そして、さらに重要なのが酸度。St Jude は酸凝固主体のチーズ。若いほどフレッシュな酸味が際立ちます。当日のチーズは、その酸度が程よく落ちており、獺祭の方に感じる穏やかな酸味とアルコール感を心地よく感じます。チーズに感じる牧草感とお酒からくるハーブのニュアンスはうまくブレンドし、チーズのクリーミー感とお酒のフルーティーな甘味はお口の中でフルーツカスタードの味わいを生み出します。とても良いペアリングでほっとしました。イベント終盤、イギリスの地方に住む年配の方が、「日本酒って美味しいのね!!想像していたものとは全然違うわ!!シェリーに似ているのね」と。イギリスの方にとっては生活の一部であるシェリー。そういっていただけて、イギリスで暮らす日本人として、とても嬉しかったのです。
(左)酸味とフレッシュ感のある若いSt Jude とルバーブのコンポート。とっても春らしいお味。詳細はこちら。イギリス、4月はルバーブの季節。
(右)若いSt Jude (セントジュード)は、甘さ控えめのチェリージャムや、セビルオレンジマーマーレードなどとも好相性。上質なゆずジャムは最高ですよ!最近、柚子も大流行なイギリス。探せば、ゆずジャム、いろんなところですぐにポチっとできますよ。探してみてくださいねー。