Cheese and Bread – チーズとパン

パンとチーズ・・・まずは基本原料をみてみましょう

チーズの原料は、ミルク、ミルクの発酵を促す微生物と熟成チーズであれば、熟成に寄与する微生物凝乳酵素(いわゆるレンネットと呼ばれるもの)、そして発酵と熟成に要する時間

パンの原料は、小麦粉発酵を促す微生物、(大半がイースト/酵母)、そして発酵と焼き上げるために要する時間

→このシンプルさが、すでに似ています。

チーズはミルクの種類、牛乳か山羊乳か?などで味わい(そして作り方)が大きく分かれます。パンの場合は、ライ麦粉、全粒粉など、麦の種類の違いで作り方と味わいが変わります。チーズは、ミルクという液体から水分を抜いて固形にしたものですが、パンは粉という流動性のあるものに水分を加えて、焼き上げて固形にします。

次に味わいに影響するのが、チーズもパンも微生物の働き・・・つまり、発酵の原理。ミルクは発酵して酸度が上がると固まりはじめ、チーズへの変化の道を歩みはじめます。パンの場合、一般的には「イースト」と呼ばれるものの働きにより、水分を含んだ粉を発酵させます。実は、ここが非常に似ているポイントで、チーズもパンも発酵食品と言われる所以・・・そして、この奥深い微生物の世界・・・チーズを作る際、ミルクを発酵させるために、いわゆる乳酸菌を培養させたものを添加し、さらに凝乳酵素も入れます。ここでどういった微生物のカクテルを使うのか?そして、この微生物君たちの働きをどのように管理するか、さらには水分量の調整で最終的なチーズの味わいと食感の方向性が決まりはじめます。これがパンの場合だと、どのような微生物君たちを使って、彼らの働きをどのように管理するのかで、ある程度のパンの味わいと食感の方向性がつきます。パンと一言で言っても、フワフワなパン??つまり、日本で一昔前、もてはやされた「イギリスパン?」、モチモチなパン??弾力があり、ノビがあるもの??それとも、キメが細かいワタのようなボディ??軽やかな味わい?それとも噛み締めるほどにジンワリと心地よい酸味が広がるパン??これらの決め手の一つが、パウダー状のインスタントイーストか、生イーストか、果実や野菜由来の天然酵母か、はたまた、家の中の空気中を彷徨っている色々な菌を集めて自家培養するサワー種か?これは少しでもパン作りをやったことがある方ならご存知。実は、これ、チーズにも似たようなことが言えます。乳の発酵を促すための微生物に何を使うのか??微生物君たちはそれぞれに違った味わいを出すのです。余談になりますが・・・日本酒の世界は潔い!すでに、どんな酵母を使っているかってことを公言し、どんな酵母がどんな風味を出すのか?ということは情報としてある程度確立しています。チーズやワインはまだまだ、この点においては一般消費者には情報が見えにくいのが現状。

さて、こうしてチーズもパンも味わいと食感の方向性が決まりかけたところで、作り手の技量がものを言います。チーズは、ミルクが固まった後(カードと呼ばれるモノになった後)、発酵のスピードを見極めながら、カードからどのように水分を抜き、カードをどのような状態に持っていくか??パンの場合は、発酵している生地の状態を見極めながら、水分を調節しつつ、捏ねていく・・・チーズは圧搾するタイプとしないタイプがあり、パンも捏ねるタイプ、捏ねないタイプあり。ともにここで大切なのが、温度。チーズもパンも最後に大切なのが、外皮・・・チーズは熟成という過程で外皮が作られ、パンは焼くことで外皮が形成されます。チーズはどのように熟成させるかで外皮が決まり、ボディも変化していきます。パンはどのように焼くかで外皮の状態が決まり、糊のような状態だったボディは温度が上がり、固化します。外皮とボディの食感と酸味と味わいの余韻・・・。チーズとパン、とっても似ていているのです。そして大きく異なるのは・・・チーズは長きにわたる熟成というものがありますが、パンにはそれはなく、オーブン内での短い焼き時間でボディが大きく変化します。その後、パンに青カビを繁殖させて熟成させたところで、小麦由来のものは美味しくはならないのであります。しかし、ミルク由来のものはおいしくなり得る!これがミルクの持つ魅力なのです。

個人の趣味として、パン作りは気づけばもう20年弱やっています・・・いつも我流で、適当でした(←これが許されるのがパン作り。だから続けられる)。今回、ロックダウンのお陰で、やっと、我が家に彷徨っている微生物君たちから起こしたサワー種の性格をしっかりと見つめることができました。チーズから得た知識をちょっと応用し、自分がやっと納得、満足できる自分だけのパンが完成しました!だからもう、早く、外に出る暮らしがしたい。もう、そろそろおうち生活も終わりにしたいなぁ・・・と思う、二月半ばなのであります・・・

小麦粉と水と塩とサワー種のみを使い、寒い冬、全工程、約24時間で個人的に好みの酸味と弾力性、食感になりました。きっと夏に同じ工程で作っても、酸味が強すぎるパンになるだろうなぁと思います。気温も影響するため、やはり自然ととも共存しながら・・・ですね。この点もチーズと同じです。

ロックダウンのお陰で娘もパンをよく焼くようになりました・・・作りたいパンのスタイルが母娘で全く違います。そう、絶対に母親のマネだけはしたく無いお年頃であり、母親が絶対に作ることのないようなスタイルのパンを作っています。薄い外皮でフワフワ。なんとなく、デザイン性もあるパン。彼女の個性がよく現れているなと親ながらに思います。イギリスのアルチザンチーズの世界も、作り手さんの個性がよく表されます。特に家族経営の農家製チーズでは、世代で違うスタイルのチーズを生産していらっしゃるというお話、よく耳にします。個性を食べ物で表現できる。チーズとパンってこの辺りも似ているのかもしれませんね。